会社を退職すると、勤務先の健康保険は原則として退職日までで終了します。
その後の主な選択肢は、
①健康保険の任意継続
②国民健康保険
③家族の健康保険の扶養に入る
の3つです。
「国保と任意継続、どっちが安い?」と迷う人は多いですが、全員に同じ答えはありません。
任意継続の保険料は退職時の標準報酬月額をもとに計算される一方、国民健康保険は前年所得や世帯人数、住んでいる市区町村によって変わります。
そのため最も確実なのは、退職前に任意継続と国保の両方の保険料を実際に試算して比べることです。
※本記事は2026年8月時点の協会けんぽ・厚生労働省の情報をもとにしています。健康保険組合や市区町村によって条件が異なる場合があります。
まず結論:家族構成と前年所得で有利な方が変わる
ざっくり整理すると、次のような傾向があります。
| ケース | 比較するときのポイント |
|---|---|
| 扶養家族が多い | 任意継続を要チェック |
| 前年所得が高い | 任意継続が有利になる場合あり |
| 前年所得が低い | 国保が安くなる場合あり |
| 会社都合などで退職 | 国保の軽減制度を要確認 |
| 1年以内に再就職予定 | 保険料と手続きの両方を比較 |
| 家族の扶養に入れる | 第3の選択肢として最優先確認 |
特に大きな違いは、扶養家族の扱いです。
協会けんぽの任意継続では、条件を満たす家族を被扶養者にでき、被扶養者本人の追加保険料はありません。
一方、国民健康保険には会社員の健康保険のような「扶養」という考え方がなく、加入する世帯の人数なども保険料に影響します。
任意継続とは?
任意継続は、会社を退職して健康保険の資格を失った後も、一定の条件を満たせば退職前の健康保険を最長2年間継続できる制度です。
協会けんぽの場合、加入条件は主に2つです。
- 資格喪失日の前日までに被保険者期間が継続して2か月以上ある
- 資格喪失日、通常は退職日の翌日から20日以内に申請する
という条件があります。
特に20日以内という期限は重要です。
「国保と比較してからゆっくり決めよう」と考えているうちに期限を過ぎると、任意継続を選べなくなる可能性があります。
国民健康保険とは?
会社の健康保険やその扶養など、ほかの医療保険に加入していない人は、原則として住所地の国民健康保険に加入します。
国保に加入した場合の保険料は、
- 前年の所得
- 世帯の加入人数
- 年齢
- 市区町村の料率
などによって決まります。
そのため、同じ年収だった人でも住んでいる地域によって保険料が違うことがあります。
国保への加入・脱退の届出は、原則として14日以内に市区町村の窓口などで行います。
任意継続の保険料はいくら?
協会けんぽの場合、任意継続の保険料は、
退職時の標準報酬月額 × お住まいの都道府県の保険料率
で計算します。
40歳以上65歳未満の場合は介護保険料も加わります。
在職中は保険料を会社と本人で原則折半していました。
しかし退職後は会社負担がなくなるため、本人が全額負担します。
そのため協会けんぽでは、目安として「退職前に給与から引かれていた健康保険料のおよそ2倍」と説明しています。
ただし上限があります。
協会けんぽでは2026年現在、退職時の標準報酬月額が32万円を超える場合でも、32万円を基準に保険料を計算します。
そのため給与が高かった人では、単純に在職中保険料の2倍にならない場合があります。
国保の保険料はいくら?
これは全国共通の金額を出すことができません。
国保は前年所得と市区町村ごとの計算方法によって保険料が変わるためです。
たとえば退職して今年の収入が0円になったとしても、
退職した年の国保保険料は前年の会社員時代の所得をもとに高くなる
ケースがあります。
そのため、
「今は無職だから国保は安いはず」
とは限りません。
退職前に住んでいる市区町村へ、
「退職後の国民健康保険料はいくらになりますか?」
と確認しておくと比較しやすくなります。
扶養家族がいるなら大きな差が出ることも
任意継続の大きな特徴の一つが被扶養者制度です。
条件を満たす配偶者や子どもを被扶養者として加入させても、協会けんぽでは被扶養者本人の追加保険料はありません。
一方、国保には扶養の仕組みがありません。
家族が国保に加入すれば、世帯人数などが保険料の計算に影響します。
そのため、
本人+配偶者+子ども
のように扶養家族が多い世帯では、任意継続の保険料も必ず確認した方がよいでしょう。
ただし、被扶養者として認められるには収入などの条件があります。
2026年から被扶養者の収入判定にも変更
協会けんぽでは2026年4月1日から、被扶養者の年間収入の判定方法の一部が変わりました。
原則として、労働契約で定められた賃金から見込まれる年間収入が130万円未満など、一定の条件を満たす場合に被扶養者として扱う仕組みが案内されています。
家族がパートやアルバイトをしている場合は、
「退職前は扶養だったから、そのまま自動的に任意継続でも扶養になる」
と考えず、改めて条件を確認しましょう。
会社都合退職なら国保が安くなることも
ここは非常に重要です。
倒産・解雇・雇止めなど一定の条件に該当する非自発的失業者には、国民健康保険料の軽減措置があります。
対象者については、前年の給与所得を30%として保険料を計算する制度があります。
そのため、会社都合退職などでこの制度の対象になる人は、
通常計算の国保より大幅に安くなる可能性
があります。
任意継続だけを見て決めず、まず自分の離職理由が軽減対象になるか確認しましょう。
自己都合退職ならどうなる?
一般的な自己都合退職では、非自発的失業者向けの軽減制度の対象にならない場合があります。
その場合は、
任意継続の保険料
vs
通常の国保保険料
をそのまま比較することになります。
前年の年収が高かった人は国保が高額になるケースもあるため、特に試算が重要です。
任意継続は2年間やめられない?
現在は途中でやめることもできます。
協会けんぽの任意継続は原則2年間ですが、本人が任意継続をやめたいと申し出た場合も資格喪失が可能です。
申出による資格喪失の場合、協会けんぽでは申出が受理された月の翌月1日に資格を失います。
そのため、
「任意継続を選んだら絶対に2年間変更できない」
というわけではありません。
再就職したらどうなる?
任意継続中に再就職して、新しい勤務先の健康保険に加入した場合は、任意継続の資格を失います。
国保の場合も、新しい勤務先の健康保険に加入したら国保の脱退手続きが必要です。
「会社に入ったら自動的に全部終わる」と思わず、必要な脱退手続きを確認しましょう。
医療費の自己負担は違う?
任意継続と国保では保険制度が異なりますが、通常の医療費の自己負担割合だけを見て、
「任意継続だから病院代が必ず安い」
というわけではありません。
比較するときは医療費の窓口負担よりも、
毎月の保険料
扶養家族
付加給付の有無
手続きの期限
を確認する方が重要です。
また、健康保険組合に加入していた人の場合は、独自の付加給付があるケースもあるため、退職前の健康保険組合へ確認しましょう。
傷病手当金は任意継続なら受け取れる?
任意継続に加入しただけで、新たに傷病手当金や出産手当金を受け取れるわけではありません。
協会けんぽでは、傷病手当金・出産手当金については、在職中からの継続給付の要件を満たす場合に限って対象になると案内しています。
ここは勘違いしやすいポイントです。
国保と任意継続を比較する手順
退職が決まったら、次の順番で確認すると分かりやすいです。
1.家族の扶養に入れるか確認
配偶者など家族の勤務先の健康保険で被扶養者になれるなら、保険料負担がない場合があります。
まずここを確認しましょう。
2.任意継続の保険料を確認
退職前に加入している健康保険へ、
「任意継続すると月額いくらですか?」
と確認します。
協会けんぽなら都道府県支部で確認できます。
3.市区町村で国保を試算
住んでいる市区町村の窓口や計算ページで、
退職後の国保保険料
を確認します。
4.軽減制度の対象か確認
会社都合退職などの場合は、非自発的失業者向けの国保軽減制度が使えるか確認します。
5.扶養家族まで含めて比較
本人だけの保険料ではなく、家族全体でいくら払うか比較します。
どっちが得?ケース別に考える
扶養家族が多い
任意継続をしっかり比較。
被扶養者の追加保険料がかからないためです。
前年所得が低い
国保が安くなる可能性。
前年所得を基準にするためです。
前年所得が高い
任意継続も必ず確認。
協会けんぽには標準報酬月額の上限があるため、高所得だった人では比較する価値があります。
会社都合退職
国保の軽減制度を最優先で確認。
前年給与所得を30%として計算する制度の対象になる可能性があります。
すぐ再就職する予定
数か月だけ加入する場合でも保険料差が出るため、月額を比較しましょう。
手続き期限に注意
任意継続は退職日の翌日から20日以内。
国保は原則として資格取得から14日以内です。
特に任意継続は期限を過ぎると選択できなくなる可能性があるため、退職後ではなく退職前から比較を始めるのがおすすめです。
よくある質問
国保と任意継続はどちらが安い?
一律には決まりません。
任意継続は退職時の標準報酬月額、国保は前年所得・世帯人数・市区町村によって金額が変わります。
両方を実際に試算するのが最も確実です。
任意継続は退職前の保険料の2倍?
協会けんぽでは原則として、在職中に本人が負担していた健康保険料のおよそ2倍が目安です。
ただし標準報酬月額の上限などがあるため、必ず2倍になるわけではありません。
国保には扶養がありますか?
会社員の健康保険のような被扶養者制度はありません。
加入する世帯人数なども保険料に影響します。
任意継続は何年加入できる?
原則2年間です。
退職後いつまでに手続きする?
任意継続は退職日の翌日から20日以内、国保は原則14日以内です。
まとめ
退職後の健康保険は、
任意継続
国民健康保険
家族の健康保険の扶養
の3つを比較するのが基本です。
国保と任意継続のどちらが安いかは、全員同じではありません。
特に確認したいのは、
前年所得
退職時の給与
扶養家族の人数
住んでいる市区町村
退職理由
です。
扶養家族がいる場合は任意継続、前年所得が低い場合や非自発的失業者の軽減制度が使える場合は国保が有利になる可能性があります。
ただし最終判断は、
任意継続の実際の月額
vs
市区町村が試算した国保の月額
を並べて比較するのが最も確実です。
そして任意継続には退職日の翌日から20日以内という期限があります。
退職が決まったら、退職後まで待たずに保険料の比較を始めておきましょう。
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参考・出典
全国健康保険協会「退職後の健康保険」
全国健康保険協会「健康保険任意継続制度」
厚生労働省「国民健康保険の加入・脱退について」
厚生労働省「非自発的失業者の国民健康保険料軽減」


